第268回研究講演会開催報告


日時:7月9日 13:30 〜 15:30
場所:東北大学工学部青葉記念会館・大研修室
演題:
『重点領域研究「ソフトウェア発展」の構想と計画』
  片山卓也 (北陸先端科学技術大学・教授)  
『情報処理専門教育カリキュラムについて』
  牛島和夫 (九州大学大学院・教授)

講演要旨:

『重点領域研究「ソフトウェア発展」の構想と計画』
北陸先端科学技術大学院大学
情報科学研究科長 片山 卓也

ソフトウェアがその仕様の変更や使用環境の変化に対して自分自身 の機能や構造を発展・変化させ、それらを許容出来るようになるこ とを、ソフトウェアの発展という。現代社会は複雑かつ大規模なソ フトウェアに強く依存しており、社会の変化にソフトウェアが対応 して発展できることが強く要求されているが、2000年問題に代表さ れるように現状の技術は極めて不十分な状態である。また、インタ ーネットに代表される広域情報ネットワークの普及によって、ソフ トウェアはそれが設計時に予想していなかった利用環境で使われる ことが多くなり、この点からもソフトウェアの発展可能性は今後ま すます重要になる。 発展可能ソフトウェアの構成技術は、今後の 情報化社会にとって最も重要な技術のひとつであると同時に、ソフ トウェア発展原理の研究は計算機科学全般に新しい局面を開くもの と期待される。
 本重点領域研究では、(1) 発展的ソフトウェアの理論に関する研究、 (2) ソフトウェア発展のための基本機構の研究、(3) 発展可能ソフ トウェアの構築方法論の研究、(4) ソフトウェア発展方式の研究、 (5) 既存ソフトウェアの適応的発展の研究の各観点より、ソフトウ ェア発展のメカニズムを科学的に解明し、発展機構を備えたソフト ウェアの構成原理を確立する。


『情報処理専門教育カリキュラムについて』
九州大学大学院システム情報科学研究科長
牛島 和夫

わが国の国立大学理工系学部に情報系専門学科が初めて誕生した のは1970年であった。しかし、わが国で情報技術者の養成・確 保が声高に叫ばれたのは、1987年通産省産業構造審議会情報産 業部会情報化対策小委員会が「高度情報化を担う人材の育成につい て」と題して中間まとめを報告したのがきっかけである。この報告 を視野にいれて、1988年文部省教育改革情報化専門部会は「情 報技術者の養成確保について(中間まとめ)」を発表した。これを 受けて、多くの大学において、情報関係学科等が設立されてきた。 しかし、そこでの教育を担当する真の専門家の数は少なく、カリキ ュラム等、多くの問題を残したままの出発であった。文部省では翌 1989年に情報処理学会に対して、「情報処理教育の改善のため の調査研究」を委嘱した。情報処理学会では「大学等における情報 処理教育検討委員会」を組織して調査・検討を重ね、先ず理工系情 報専門学科におけるモデルカリキュラムJ90を1991年3月に 提言した。委員会では、J90提言以降のコンピュータサイエンス (CSと略す)の発展をふまえて新しいCSカリキュラムの策定作 業を94年8月から精力的に行ってきた。1997年3月に最終案 J97が提示された。
 一方、米国の計算機科学協会ACMでは、CSの大学教育につい て、1968年にカリキュラム68という提案を行った。これは、 電気工学、物理学、統計学といった既存の学問領域に対してCSが 独立な学問領域であり、独立の学科を作って教えるべき内容をもっ たものであることを初めて宣言したものである。ACMは、10年 後にカリキュラム78を、さらに1988年の検討案を経てカリキ ュラム91を提案している。
 講演ではこれらのカリキュラムの考え方や、その影響について紹 介する。後半では、J97報告書において個別科目を説明するキー ワードの使用状況を取り上げてコンピュータサイエンス分野を概観 する。

参加者数: 60名
報告者: 東北大学大学院情報科学研究科 教授 伊藤 貴康