野口研究奨励賞受賞



伊藤健洋(いとう たけひろ)
東北大学大学院情報科学研究科
研究の概要:
 現在,様々な問題が“グラフ”を用いてモデル化されている.グラフとは,い
 くつかの点と,それらの点同士を結ぶ何本かの辺からなるもので,いろいろな
構造を抽象的に表現することに優れている.例えば,図(a)はコンピュータネット
ワークの構造をグラフで表現した例であり,各点は丸もしくは四角で描かれ,各
辺は直線分で描かれている.ここで,丸の点は端末を表し,四角の点はサーバを
表し,各辺はネットワーク(ケーブル)を表している.
 本研究では,ビデオ・オン・デマンド用ファイル転送問題や電力系統の配電融
通問題などに応用がある「需要点と供給点があるグラフの分割問題」を扱った.グ
ラフの各点には“需要点”または“供給点”の役割が与えられ,それぞれに“需要
量”または“供給量”と呼ばれる正の実数が与えられている.このとき,できるだ
け多くの需要を満足したい.即ち,供給を受けている需要点の需要量の合計を最大
にするようなグラフの分割を見つけたい.例えば,図(a)のグラフに対し,図(b)は
グラフ分割の一例を示している.ここで,各供給点は四角で描かれ,各需要点は丸
で描かれている.また,図(b)において,供給を受けている需要点は,その供給元
の供給点と同じ色で塗られている.このような分割を見つける問題は,ビデオ・オ
ン・デマンドにおいてサーバの割当方法を見つける問題や,電力系統において停電
の復旧方法を見つける問題などに応用できる.
 この分割問題は,たとえグラフが“木”と呼ばれる単純な構造をしていても,い
わゆるNP困難な問題である.したがって,木に対してさえ最適解を高速に求めるこ
とは絶望的である.そこで本研究では,木に対して最適解に極めて近い近似解を高
速に求めることができる近似アルゴリズムを与えた.このアルゴリズムは完全近似
スキーム(FPTAS)と呼ばれるものになっており,いわば最良の近似アルゴリズム
である.



受賞の感想:
 この度は,野口研究奨励賞をいただくことができ,たいへん光栄です.これも西
関教授,周准教授をはじめとする先生方のご指導のおかげです.東北大学に学部生
として入学してから約10年になりますが,この東北の地で研究者としての私を基礎
から育てていただきました.この賞を励みに,今後も研究に取り組んで参ります.
これからもご指導,ご鞭撻の程よろしくお願いいたします.


受賞の様子:  

[対象論文] Partitioning Trees of Supply and Demand. Takehiro Ito, Xiao Zhou and Takeo Nishizeki. International Journal of Foundations of Computer Science, Vol.16, No.4, pp.803-827. 2005 [参考論文1] Partitioning Graphs of Supply and Demand. Takehiro Ito, Xiao Zhou and Takeo Nishizeki. Discrete Applied Mathematics, to appear [参考論文2] Approximability of Partitioning Graphs with Supply and Demand. Takehiro Ito, Erik D. Demaine, Xiao Zhou and Takeo Nishizeki. Journal of Discrete Algorithms, submitted