5回(平成21年度)野口研究奨励賞

 

  受賞者

内澤 啓 (うちざわ けい)

東北大学大学院情報科学研究科

 

[研究の概要]

脳の神経回路網で実現される情報処理において,神経細胞間の情報伝達には電気信号(パルス)が用いられています.近年の研究結果から,このパルスの発生は脳にとって非常にエネルギーコストが高く,結果として神経回路網で実現される情報処理はパルスの発生量を少なく抑えて実現されている,という事実が明らかになりました.本研究では,「しきい値回路」と呼ばれる脳の神経回路網の理論モデルを基にして,回路の計算過程で生じるパルスの発生量をエネルギー消費量の指標と捉える新しい計算モデルを提案し,この提案したモデル上で行われる情報処理のふるまいを解析しています.解析結果から,脳の神経回路網で実現される情報処理の基本原理や,エネルギー消費を抑えるために神経回路網の構造にどのような工夫がなされているのか明らかにすることを目指しています.

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「脳の神経回路網のモデル化」
今回の受賞理由となった論文では,「回路の計算過程で生じるパルスの発生量」,「回路を構成する素子の個数」,「回路が情報処理に要する時間」という3つの値の間に,トレードオフの関係があることを初めて数学的に厳密に証明しました.すなわち,上記3つの値全てが小さいしきい値回路は多くの場合において原理的に存在できず,パルス発生量を減らすためには,素子数あるいは情報処理に要する時間を犠牲にして大きくせざるをえないことが明らかになりました.この成果は,しきい値回路という脳型の情報処理システムにおいて,パルス発生量が情報処理能力に強い影響を与えるパラメータとなっていることを理論的に証明することで,その情報処理の基本原理の一端を明らかにした結果といえます.

[受賞の感想]

栄誉ある野口研究奨励賞を受賞することができ,大変光栄に思っております.このような賞を受賞できましたのも,学生の時よりご指導,ご鞭撻いただきました丸岡先生,西関先生をはじめとする多くの先生方のおかげです.心より御礼申し上げます.この賞を励みに,今後もより一層努力をしてまいりたいと思います.


 

授賞式(2010519日)

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